◆魔法・魔術に関する資料をまとめるために先輩後輩がインタビュ〜する謎会話文
《解説》ベルフェゴール
元天界第五研究室副室長、現竜字軍地方支隊参謀、研究所所長他
ガープ「……“ 万物に宿る魔力、主に術者自身の体内の魔力を体外に放出することにより人為的に引き起こすことの出来る現象を「魔法」「魔術」と呼ぶ ”だってさ。」
セイル「ということで、今回は魔法や魔術に関するまとめだな。ということでベルフェゴール先生、解説をよろしくお願いします。」
ベルフェゴール「何が先生よ、馬鹿にしてるわけ?専門分野だから断らなかったけどまさかこんな茶番につき合わされることになるとはね。まあいいわ、今回はかなり基礎的なことについて説明するから。」
「まず、そもそも魔力とはいったい何なのか、ね。」
通常どの時軸、どの階層においても空間には魔圧と呼ばれるものが存在している。魔圧は気圧や水圧と似た性質を持つ一種の圧力であると考えられ、階層の下に行くほど強く、上に行くほど弱い。気圧や水圧との違いはその性質が重力によるものでなくあくまでも階層の高度に依る点、そして、物質を押しつぶすものではなく、物体を浸蝕していくことにある。強度の魔圧に晒された物質は時間の経過と共に変形や性質の変化を引き起こす他、生物である場合は体調を悪化させ最悪の場合は死に至ることもある。魔力はこうした魔圧によって物質が浸蝕されることを防ぐため、万物に元来備わっている反発力そのものである。
「魔圧ですか…そんなものが世界に存在していたとは知りませんでした。」
「目に見えるものではないから意識できなくて当然よ。ちなみに魔圧が何の為に存在しているのかはまだ解明されていないわ。」
「そういえば俺の耳がこんなんなったのも魔圧の影響だったな。」
「そうね。地上から魔界に来る際の急激な魔圧の変化で体の末端の組織が変形することは大いにあり得るわ。」
「えっ?でも待ってください、僕たちも地上から魔界に来ましたけどどこにもなんともないですよ?」
「そりゃ私たちは門を通って来たもの。」
「門……?あっ、シンザイの?」
魔孔(空間中の魔力量の歪みで引き起こる亀裂や穴。隣接する二層間を接続する。)が偶然性をもってあらゆる場所に不規則に出現消失するのに対し、門と呼ばれるものはある一定の場所に一定周期ごとに開通する。その周囲には二つの世界を平均した魔圧がかかる。
「そう。門の近くに一定期間滞在すると体が魔圧に慣れてくるのよ。」
「へ~、それで三日も待ったんですね。と、話が逸れてしまいましたね。そういえば、体の末端が変形しやすいみたいな話でしたけどそもそも魔力はどういった形で存在するんですか?」
「ざっくりいうと非常に細かい粒子っていう感じかしら。」
「はあ。」
「魔圧同様に目に見えるようなものではないわね。これ以上はかなり専門的な話になっちゃうから今回はよしましょう。で、そうね、生き物の場合魔力は血液中に多く含まれているわ。だから耳とか指先とか、血流の悪い部分は魔圧の浸蝕を受けやすいのね。」
「うーん、なるほど。」
「魔力についてはこれで十分かしら?」
「あー次行く前に一つだけ、そもそも魔圧の悪影響を受けないために持ってる魔力を体外に放出して大丈夫なのかってことについて解説お願いします。」
「は?あんた知ってんでしょそれくらい。ふざけてんの?」
「いやなにこの人……こわ……。俺は知ってるけど、まとめるために解説してもらうことが目的なんでこれ。」
「はいはい。……魔力を放出して大丈夫なのかについてね。理論的には大丈夫じゃないわ。普通の生き物の場合、魔力の保有量は個人によって多少の違いはあるけど、生まれた土地の魔圧と釣り合うだけの量を大きく上回ることも下回ることもない。だから、魔法や魔術を使うために魔力を放出してしまうと、その分の魔力が回復するまでは魔圧の影響をもろに受けてしまうことになるわよね。」
「えっ、それは大変だ。」
「魔力自体は時間の経過や食事による体外からの摂取で勝手に回復していくものだけど、それでもやっぱり魔力を使う行為は命を削るに等しいわ。つまり本来、命を捨てる覚悟でないと魔法なんてのは使うことが出来ないものなのよ。自然な生態系の上ではね。」
「自然な生態系の上では、ですか。」
「ええ、精霊や私たち天界人のように魔力を余分に蓄えておくことが出来るように"造られている"生き物は話が別だわ。精霊については蓄えるという言い方は相応しくないけど、まあこの辺は後で誰か別の人に聞いて頂戴。これらの新出人類は魔圧に耐えるだけの魔力を除く余剰分は好きに使うことが出来るわね。それから、階層を移動すれば原生人類でも魔法を使える場合があるわ。」
「生まれた階層よりも上の階層に行くんだな。」
「そう。生まれ持った魔力の量は階層を移動しても変わることはない。この原理を利用すれば魔界生まれの種族が地上に行くことで魔法を使うことが出来るようになるわ。ま、現段階では地上より上の階層に繋がった記録がないから、この方法を使うことが出来るのは魔界人だけだけどね。」
「そうか~それじゃあ地上の人は魔界に来ても自由に魔法を使えるようにはならないんですね…。」
「地上の人は魔法を自由に使えるどころか魔界に来たら死んでしまうかもしれないわよ。」
「えっ?!あ、魔圧の影響ですか?」
「地上と魔界の魔圧の差はかなり大きいのよ。地上の魔圧の範囲にしか対応していない種族が魔界に来たらすぐに衰弱してしまうでしょうね。私たちが今平気で過ごしていられるのだってさっき言った余剰な魔力のおかげなのよ。その代わりに魔法が使いづらくなっているの、今まで気付かなかったの?」
「僕あまり魔法は使わないので…あれ、でも魔術は普通に使えますよ?」
「魔法と魔術は仕組みが違うから当然ね。丁度いいわ、次はこの二つの仕組みについて説明していきましょう。」
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「試しにセイル、魔法と魔術の違いについてどの程度の認識を持ってるのか聞いてもいい?」
「ええと、魔力を使って単純な物事を引き起こすのが魔法。でそこに術式を加えてさらに複雑さや幅を設けたのが魔術、という感じでしょうか。」
「まあ一般的な考えではそれで十分かもしれないわね。」
「間違いなんですか?」
「間違いとは言ってないわよ。ただ魔術を魔法の上位互換のように考えるのはあまり良くないわね。ひとまずそれぞれがどんなものかについて説明していきましょう、まずは魔法について。」
魔法は体内の魔力に手を加えず、そのままの形で放出することで目的の現象を引き起こすものである。魔法の属性ごとに引き起こすことの出来る作用は異なり、魔法の属性には術者の持つ魔力の属性が直接反映される。属性には火・水・地・風・光・影の六属性、いずれの属性も含まない無属性の七つがある。六属性はそれぞれに
火:炎や熱/思想感情
水:液体とその動き/時間
地:土や植物/生命
風:気体とその動き/空間
光:光/概念・規律
影:影/物質・対価
を司る。
「魔法は自分の魔力を使って行うものよ。まあそのまんまね。魔法の強度は消費される魔力の大きさ、精度は術者の力量によるわ。」
「だから使える魔力が少ないとあまり大きなことはできないっていうことですね。」
「俺の方ちらちら見んのやめろ。」
「うん。で、次は魔術。」
魔術は体内の魔力を命令式として変換し体外に放出することで空間中の魔力や対象に直接作用し、物事を引き起こすものである。命令式には属性があり、複数の属性を組み合わせることも可能。よって、起こすことの出来る現象は理論上無限である。
「魔術は周囲の空間や対象の魔力に命令して行うもの。全然違うでしょう?魔術の強度は様々な要因で左右されるから一概に言うことは出来ないけれど、まずはなんといっても術式の精度、そして命令式に使われる魔力…これは術者の魔力ね、の量。後は対象の属性や魔力量なんかにもかなり左右されるものね。」
「魔術で使ってるのは自分の魔力だけじゃないんですね。」
「そう、良い術式を持ってれば簡単なことなら自分の魔力はほとんど使わずに起こせてしまうこともあるわ。」
「やっぱり魔術の方が便利だし強くありませんか?空間の魔力を使うのなら魔法と比べて魔力切れの心配も少ないし。」
「そうかしら?例えば、自分の魔力を自分の属性で魔法として使う時に出力できる力を80%とするわね。同じ事象を起こそうとして魔術を使う場合は自分の術式と対象の関係によってそれが40~120%程度まで変化するとしたら、どう?」
「術式と対象の関係?」
「言ったでしょう、魔術は対象の属性に左右されるって。湿度の高い空気中で炎を発生させるような命令式を拡散しても半分くらいが打ち消されてしまうことだってあるわ。魔術は全ての兼ね合いを考えて初めて十分な効果を発揮することが出来るのよ。」
「はあ…そうだったんですか?全然考えないで使ってました。」
「魔力の無駄遣いね。まあいいわ、それで続きね。わかると思うけど、ほとんど一律で80%の力を発揮できるものと、発揮できる力が40%の時と120%の時があるものとを比べることはできないのよ。」
「ん~まあニュアンスは伝わりました。」
「ニュアンスはってあんたね……。」
「だいたいなんで80%なんですか?基準にするなら100%の方が良くないですか?」
「話についていけないからってどうでもいい所に突っ込み始めたなこの人。」
「やれやれね。まあでも100%にしなかったのはちゃんとわけがあるわよ。」
「あ~魔法にも反属性による打ち消しが有効だから?」
「……その通りよ。魔法を体外に出した状態が100だとしても、空間のもつ属性傾向でほぼ全ての魔法や魔術は一定量効果が減少するわ。まあ全てに適応されるものだから比べる場合にはあまり意識する必要もないのだけれど。」
「ええ……使った魔力に見あった効果が得られてるわけじゃないんですね……。」
「あとそうね、わかってると思うけど魔法がみんながみんな同じように使える力だとか言ってるわけでもないわよ。術者の魔力量が大きいだけ、術者の経験や才能が高いだけ爆発的に威力は増大していくわ。逆も然り。」
「うーん……じゃあ魔法の方が優れてるんですかね?」
「それも違う。魔術だって術者の魔力が大きければあらゆる式を包括出来るようになるし、状況に応じて最適な式を組むことさえできれば、さっきも言った通り起こせる現象は無限大なんだから。それぞれを場面によって使い分けることが出来るのが一番賢いやり方だと私は思うわ。」
「あ~、なるほど。ありがとうございました。」
「眠いのはわかりますけど適当におわらせないでください先輩。」
「寝てもいいけどちゃんと記録はとりなさいよね。同じことは一回しか話さないんだから。まあダレるくらいなら、今回はこれくらいにしときましょう。」
「あい、どーも。じゃあ俺らはこの辺で……。」
「それで?報酬は?」
「ん?」
「あは……いやぁ、話してて楽しそうだったし今回は、ね。良くないですか?」
「専門家に対価を払わず意見が聞けるとでも?いいわ、あんたたちには今から試し打ちの実験台になってもらうから。」
「試し打ち?まって、なんの?なんの??」
「打てば分かるわよ。」
※術式と命令式はほぼ同義。狭義では
術式…魔力を命令式に変換する為の概念方程式
命令式…術式によって変換された魔力そのもの
である。